同じ材質なのに、なぜ材質記号が異なるのか?—知られていない加工の違いとは。

精密加工の現場では、「SUS303、A6061、SCM435 など同じ材質なのに、なぜメーカーや案件ごとに材質記号が違うのか?」と疑問に思われることが少なくありません。

同じお客様の図面であっても、年度によって材質記号が変更される場合もあります。実は、材質記号は単なる“符号”ではなく、製造プロセス、品質要求、材質の細かな仕様、さらには用途の違いまで反映した重要な情報です。

こうした違いを理解することで、誤解を防ぎ、コストや納期判断もスムーズになります。ここでは、「同じ材質でも材質記号が異なる理由」を4つの視点から解説します。

🔍 同じ材質 ≠ 同じ仕様(材質記号が分かれる理由)

材質が同じ名称であっても、成分、状態、硬度、加工性が異なる場合があります。これらの差は工具摩耗、加工時間、表面粗さに影響するため、
工場では材質記号を分けて管理し、混同を防ぐ必要があります。

🔹 ステンレス材(SUS 系)

  • SUS303/303B:標準材、切削性は普通

  • SUS303Cu:Cu 添加で切削性向上

  • SUS303F:快削材で量産向け

  • SUS304/304L/304F:強度・耐食性・加工性が異なる(304F=快削材、304L=低炭素)

🔹 合金鋼(SCM 系)

  • SCM415/435/440:強度・熱処理硬度・加工性が大きく異なる

  • S45C/S50C:炭素量によって工具摩耗や強度が変化

🔹 アルミ合金(A6000 系)

  • A6061-T6:最も一般的

  • A6061-T651:応力除去で変形しにくい

  • A7075:高強度だが加工が難しい

🔹 銅合金

  • C3604:快削性に優れる

  • C2680:硬めで工具摩耗が早い

  • CAC406:高強度だが加工困難

  • C1020:導電性は高いが切削が難しい

🔹 チタン合金

  • Ti-6Al-4V(Grade 5):加工難易度が非常に高い

  • Grade 2:比較的加工しやすい

材質のわずかな差でも加工時間・コストに影響するため、材質記号を分けて管理する必要があります。

 

🛠️ 加工方法が異なれば、材質記号も分けて管理する

同じ形状でも、加工方法によって材料管理が変わることがあります。

  • 自動旋盤(スイス型):長尺材・量産向け

  • 複合加工機:旋削+フライスが必要な複雑形状

  • CNC 旋盤:加工順序や治具が異なる

加工プロセス・治具・工数が変わるため、材質記号を分けて管理する方がトレーサビリティ上も安全です。

✏️ 設計条件の微調整 → 材質記号が変更される理由

例えばわずか 0.05mm の変更でも、工程・工具・測定基準が変わることがあります。

  • 公差が厳しくなる → 測定工程が増える

  • 粗さ向上 → 工具変更や加工時間増加

  • 面取り/溝追加 → 別工具・別加工プロセスが必要

ISO や AS9100 でも、異なる仕様は別管理が推奨されています。

 

🎯 用途が異なる場合も、材質記号を分ける必要がある

外観・材質が同じでも用途が違えば別管理が必要です。

  • A版:量産用

  • B版:試作用

  • C版:治具用

  • D版:別顧客向け仕様

用途の違いにより検査基準・コスト・納期が変わるため、材質記号で管理するのが合理的です。

 

結論:材質記号から、その部品の製造要求が見えてくる

材質記号は単なる表示ではなく、材質バージョン、工程、精度、品質要求などその部品に必要な条件をまとめた「製造の指針」です。

材質記号を明確に分けることで:

  • 加工条件の誤認を防ぎ

  • 仕様混同を避け

  • 見積・工程・品質管理がスムーズになる

つまり、材質記号はその部品の“身分証明書であり、製造マップです。精密加工であるほど、適切な材質記号管理が不可欠です。