樹脂のCNC旋盤加工とは? メリット・課題・対応可能材料をわかりやすく解説

樹脂の加工方法には、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、3Dプリントなどがあり、それぞれに適した製品形状や生産規模があります。しかし製造現場においては、CNC旋盤による樹脂切削加工が現在も幅広く用いられており、特に高精度・小ロット・多品種といった要求において、欠かせない加工方法となっています。

では、樹脂を射出成形できるにもかかわらず、なぜCNC加工が必要とされるのでしょうか。また、加工上の難しさや材料面での制約にはどのような点があるのでしょうか。本稿では、CNC旋盤加工メーカーの立場から、そのポイントをわかりやすく解説します。

 

🔧 なぜ樹脂にCNC加工を用いるのか?

最も重要な理由は、「柔軟性」と「精度」です。

射出成形は大量生産に適していますが、初期段階で金型投資が必要となり、設計変更が発生した場合には、金型修正に時間とコストがかかります。
一方、CNC旋盤加工は金型を必要とせず、設計変更にも柔軟に対応できるため、以下のようなケースに適しています。

  • 試作・エンジニアリングサンプル

  • 小ロット生産・カスタム部品

  • 高い公差精度が求められる機能部品

  • 金属部品と組み合わせる樹脂部品

±0.01mmレベルの精度が求められる場合、射出後の修正よりも、CNC加工の方が効率的かつ安定した対応が可能です。

 

⚠️ CNC旋盤による樹脂加工の実務上の課題

CNC旋盤加工は柔軟性に優れていますが、樹脂は金属ほど加工しやすい材料ではなく、実務上いくつかの課題があります。

1. 熱変形の問題

多くの樹脂は熱伝導率が低く、回転数や送り条件が不適切な場合、摩擦熱によって変形や溶けが発生し、寸法安定性に影響を与えます。

2. 材料剛性の不足

PEやPTFEなどの材料は比較的柔らかく、加工時の弾性回復により、実際の寸法と測定値に差が生じることがあります。加工経験に基づく補正が必要です。

3. バリ・表面品質

樹脂はバリや糸引き、切削痕が発生しやすく、工具選定や切削方向、後工程処理が外観品質や組立性に大きく影響します。

4. クランプ方法と変形管理

薄肉形状や細長い部品では、クランプ時の変形が起こりやすく、治具設計が不十分な場合、機械精度が高くても良品を得ることができません。

このように、樹脂のCNC旋盤加工は、図面通りに削るだけでは成立せず、製造経験と現場判断が重要となります。

 

🧪 CNC旋盤加工が可能な代表的樹脂材料

以下は、実務で使用頻度が高く、CNC旋盤加工に適した主な樹脂材料です。

  • POM(ポリアセタール)
    寸法安定性と耐摩耗性に優れ、歯車・ブッシュ・摺動部品に多用されます。

  • PA(ナイロン)
    靭性・耐衝撃性に優れますが、吸水性への配慮が必要です。

  • PEEK
    耐熱性・強度が高く、半導体・航空宇宙・医療分野で使用されます。

  • PTFE(フッ素樹脂)
    低摩擦係数が特長ですが、加工時の変形管理が難しい材料です。

  • ABS / PC
    構造部品や筐体用途に適しています。

  • PE / UHMW
    耐摩耗性・耐薬品性に優れ、工業用途で多く使用されます。

材料選定においては、機械特性だけでなく、加工安定性や公差実現性を同時に考慮することが重要です。

 

✅ CNC旋盤加工が最適となるケース

実務経験を踏まえると、以下の条件に当てはまる場合、樹脂に対するCNC旋盤加工は有効な選択肢となります。

  • 短納期での試作や小ロット対応が必要な場合

  • 単価よりも公差・機能性を重視する場合

  • 金属部品との高精度な組立が求められる場合

  • 将来的な設計変更の可能性がある場合

 

🏁 まとめ

樹脂加工において重要なのは、加工方法そのものの優劣ではなく、製品用途や製造条件に適しているかどうかです。

設計がまだ固まっていない段階や数量が少ない場合、また寸法・公差・組立精度が重視される用途においては、CNC旋盤加工が射出成形よりも直接的で管理しやすい解決策となることがあります。

CNC旋盤加工メーカーにとって、樹脂加工の価値は「加工できるかどうか」ではなく、材料特性・加工リスク・使用条件を踏まえた上で、最適な製法判断を支援できるかどうかにあります。

それこそが、高付加価値製造の本質と言えるでしょう。